にわかに注目を集めている「地経学」に関して、ワシントンDCで調査研究に従事していた著者が、最新の理論も踏まえつつ、広い視点に立って紹介・分析。米中対立の世界的な構造が、国家・企業、そして価値に及ぼす影響を論じる。著者は明確なスタンスを示す一方で、根拠となる議論や論文なども丁寧に紹介。ロシアのウクライナ侵略が持つ地経学的な意味合いについても、追記でカバーされている。地政学における経済的手段の活用、米中対立と企業活動への影響、気候変動への対応と企業活動・国際政治、人権・民衆主義といった価値と外交・経済の関係、デジタル通貨と通貨覇権といった問題を考える上で必読の書。本書は以下の7つの章からなる。第1章「米国の外交・対中政策」では、米中対立の本質を抑えた上で、対中戦略を検討する際の枠組みを紹介し、競争を管理する重要性を強調する。第2章「貿易とサプライチェーン」では、米中完全分離(デカップル)のコストが高いことを指摘しつつ、分野を絞った部分分離の重要性を主張。同時に、バイデン政権の貿易政策に大きな問題があることを厳しく批判する。第3章「経済制裁・経済安保」では、相互依存がもたらすプラスとマイナスの両面を提示し、また経済制裁の有効性を維持するための前提につき分析する。さらに、日本でも議論が進む経済安保に関して、ダイナミックなアプローチが不可欠であることを強調する。第4章「金融・通貨・インフラ」では、ステイクホルダー資本主義の問題点を痛烈に批判した上で、中国の「一帯一路」の真の問題を明らかにし、さらに「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」に関してその地経学的な意味合いを分析する。第5章「気候変動」では、技術中立的なカーボンプライシングの必要性を力説し、その上で炭素税が最も有効な方策であることを主張、さらに、炭素国境調整措置を詳細に解説する。第6章「人権・民主主義と板挟みになる企業」では、新疆ウイグル自治区での人権問題、香港国家安全維持法につき解説しつつ、板挟みの中で引き裂かれる企業の状況を紹介し、新たな理論枠組みを提示する。「おわりに――英米本位の『民主主義』を排す」では、中国が主張する中国式「民主主義」の優位性の主張を、近衛文麿の「英米本位の平和主義を排す」に擬しつつ批判。同時に、我が国を含む西側諸国も民主主義の改善が必要なことを指摘する。